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 オーディオからビジュアルへ 高度計や速度計が娯楽だった時代 長いフライトの時間をどうやって過ごすか。
乗客にとって最大の関心事であり、最も現実的なテーマだ。
 飛行機ファンや航空マニアは、ただ飛んでいるだけでうれしいものだが、長距離路線ではさすがに時間を持て余す。
そこで機内娯楽のシステムが発達してきたわけだ。
本章では機内で退屈な時間を過ごさないための機内サービスを取り上げよう。
開高健先生の語彙を拝借するなら、機内でいかに「時間をうっちゃるか」。
 空の旅の初期、機内での最大のエンターテインメントは、フライトそのものだった。
乗客の機内娯楽といえば、まずは窓から下界の景色を眺めることだったのである。
 これこそは、他の乗り物にはない醍醐味。
何よりも、飛行機で飛ぶこと、それ自体が最大のエンターテインメントだった時代である。
初期の旅客機は、いずれも窓が大きく、キャビンは与圧されていなかったため、窓を開けることができた。
シートの背のポケットには、窓からの眺望の参考に、と必ず飛行ルートの地図が入っていた。
初期のスチュワードもスチュワーデスも、乗客に景色を説明するのは大事な仕事だったのだ。
 景色を眺める以外は、新聞や雑誌(クルーが搭乗前に購入)を読むくらい。
それにも飽きてキャビンを見回すと、あった! 娯楽システムが。
 それは、キャビンの壁面に設置された計器類だ。
とはいっても、せいぜい高度計、時計、壁に高度計(左)と外気温度計が並ぶ初期のキャビン(1930年、フォード・トライモーター)速度計くらいであるが。
当時は、高度、時刻、速度、これらの情報の提供も娯楽だったのだ。
一九二〇年代のアームストロングーホイットワースーアーゴシーでも、三〇年代の最初にスチュワ上アスが搭乗したボーイング80でも、フォードートライモーターでも、当時の旅客機のキャビンに、高度計や速度計、あるいは外気温度計は必需品だった。
これらは、乗客に「飛行機」を実感させるという観点からすれば、立派な機内娯楽である。
ちなみに、飛行中に時差を調整して時計を進めたり遅らせたりするのも、スチュワーデスの仕事だった。
たとえば、ボーイング80が就航したサンフランシスコ~シカゴ線は、パシフィック、マウンテン、セントラルと三つの時間帯にまたがっていた。
 テレビ、ラジオの登場 しかし、本当に娯楽に値する機内エンターテインメントの試みも、ごく初期の頃から行われてはいる。
 早くも一九二〇年代に英国のインペリアル航空で、機内グラマフォン(今や死語か)の実験が行われている。
グラマフォンとはレコードープレイヤーの古語、日本語では蓄音機(これも死語?)のこと。
もちろん手回し式だ。
つまりキャビンで乗客はレコードを聴いたのだ。
PES(パッセンジャー・エンターテインメントーシステム)の最初はオーディオだったといえる。
 一九二五年四月には、ヨーロッパ大陸内を飛ぶ、これまたインペリアル航空のパントリー・ページ機(おそらくW8かW9型)のキャビンで、世界で初めて映画が上映された。
これは、手回し式の映写機を使い、キャビン前方の壁にスクリーンを用意したもので、作品はアメリカのファーストーナショナル社製作の「ロストーワールド」(コナンードイル原作、パワー・O・ホイト監督)たった。
 アメリカでは一九二九年一〇月八日、TAT(トランスコンチネンタルーエアートランスポート、後のTWA)の大陸横断線を飛ぶフォードートライモーターで、初めて映画が上映されている。
こちらのプログラムは、ニュース映画一本とマンガ映画二本(タイトル不詳)だったということだ。
大型スクリーンによる機内映画の上映 オーディオや映画に遅れて、一九三三年にはラジオが登場する。
アメリカン航空のカーチスーコンドー機内で、初めてラジオ放送が聴かれたというのだ。
アメリカン航空で五人目のスチュワーデス(看護婦資格を持っていた)、イゾラーリードルーターナーの回想によると、これは、ラジオが聴けるほどキャビンが静かだということをデモンストレーションするための試みたった。
ニューヨーク~シカゴ線でのことで、一人の乗客が”犠牲”になって、ずっとラジオを膝の上に乗せ続けていたのだそうだ。
 実はテレビはラジオより一年早い。
一九三二年に、アメリカのウェスタン航空が、フォッカーF10のキャビンに、世界で初めてテレビ受像機を備え付けている。
 ただし、これらはいずれも実験的なもので、継続した機内エンターテインメントの提供ではなかった。
 映画からビデオへ 戦後、空の旅が次第に一般化しはじめると、オーディオとともにビジュアルが機内エンターテインメントの主流になる。
オーディオも、最初は単なる管状のイヤホンで聴いていたのだが、やがてヘッドホンになり、現在ではノイズリダクションのハイクオリティーヘッドセットヘと変わった。
 ビジュアルのほうは、ジェット旅客機の初期タイプであるDC-8、B707の時代には、ビデオテープをテレビーモニターで流すことが多かったが、シャンポージェットの出現で大きく変化する。



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